大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「名木沢クン、ちょっと来て!」

 翌朝、私は、出勤するなり神屋課長に呼ばれ、一緒に社長室まで連れて行かれた。
 訳もわからず引きずられ、中に入れば、先ほどまで一緒に通勤していた聖と――片桐さんがいた。

「――え、っと……あの……?」

 戸惑いながら待ち構えていた社長と秘書の入和田(いりわだ)さんを見やると、無言で眉を寄せられる。
 そして、パソコンを応接セットのテーブルに置かれ、目の前のソファにうながされたので、聖とともに座った。

 ――そこに現れたのは。


 ――”ワールドスパイス、秋の大感謝祭!”

 そう、明るい女性の声が響き渡る。

 そして。


 ――”世界で一つだけの、あなただけの調味料プレゼントします!”



「――……っ……!!??」


 私は、勢いよく、後ろに立っていた片桐さんを振り返った。

「――コレ……何でっ……‼」

 すると、彼は、無表情で社長を見やる。
 ――どういう事⁉
 動揺する私――聖だって、戸惑っている。
 当事者のはずの私がこうなのだ。
 彼女に至っては、何で見せられたのかすら、わかっていないだろう。

「――……どうやら、その反応じゃ、知らなかったみたいだね……」

 そう片桐さんに言われ、私は立ち上がる。
「何の事ですか⁉一体――何で、ワールドスパイスがっ……‼」
「僕も、昨夜、スマホに流れてきたCMで知ったんだ。……確認したら、ほぼほぼ、ウチで上げた案と同じ――」
 四班肝煎りとまで言い切った、あの企画が――どうして……。
 私は、社長を振り返る。
「……どういう……事、でしょうか……」
 社長も、弱り果て眉を下げて首を振った。
「いや、ボクも何ともね。……お盆前に企画書に判を押した時には、そんな話、同業者で欠片も出ていなかったよ」
 という事は――完全に、秘密裏にしていたという事?
 でも――それにしては、準備が早すぎないか。
 違和感は、もちろん、神屋課長にも、片桐さんにもあったようで――二人の表情は、沈んだままだ。

「それで――久保さん、お兄さん(・・・・)から、何か聞いていないかな?」

 社長は、そう言って、聖の隣にしゃがみ込む。
「――……い……え……」
 彼女は、真っ青になり、緩々と首を振るだけだ。
 まさか、想真さんから聞いていたとは思えない。
 私達の仕事上――家族にだって、企画の決定案は秘密だ。
 アドバイスをもらうことはあるかもしれないが――詳しい内容を言うはずが無い。
 社長は、よっこらしょ、と、立ち上がり、私達を順番に見やる。
 そして――沈んだ表情で、言った。


「――二番煎じは、ウチのプライドにかかわるからね。……申し訳無いが、この企画は没だよ」

< 82 / 143 >

この作品をシェア

pagetop