大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 部屋に帰り、持っていたバッグを床に投げつける。

 ――ふざけるんじゃない!

 私は――今まで、一体、何のために――……!


 そう、叫びたかったが、それよりも先に、涙があふれ出てきた。


 ――せっかく、希望が持てたと思っていたのに――その矢先に、コレか。


 頼みの綱の仕事で信用されていなかったのなら――私には、もう、何も無い。


 でも――

 本当の事が、知りたい。


 私は、涙をそのままに、顔を上げる。

 ――何故、ウチの企画が知られたのか。

 投げっぱなしだったバッグから、スマホを取り出すと、私は、想真さんの番号を出す。
 そして、直接電話をかけた。



「お疲れ様、待たせたかな?」

「……いえ、大丈夫です」

 仕事が終わる頃なら、と、約束を取り付け、ワールドスパイスの本社近くの駅で待ち合わせた。
「会社から直行したのかな?夕飯は――」
 機嫌良く言いかける想真さんを遮り、私は強い口調で尋ねた。

「――”ワールドスパイス大感謝祭”――その企画は、誰が出したんですか」

「……え」

 私は、キョトンとした彼をにらみ上げ、更に続けた。

「あの企画はっ……片桐さん達の班が、必死で練り上げてっ……私だって、慎重に慎重にチェックして、何度も差し戻して、それなのにっ……」

 ――何で、アンタ達が先に出すのよ!

 そう続けようとし、固まった。


「――落ち着いて、羽津紀さん」


 想真さんの腕の中は――思った以上に穏やかな温かさで――。

 私は、その温もりに耐え切れず、公共の場で泣き崩れてしまったのだった。



 どうにか、泣きじゃくる私を引きずりながら、想真さんは、駅の駐車場に停めていた自分の車に、私を乗せた。
「……落ち着くまで、乗っていて」
 そう言って、彼は、近くの自販機に向かって行き、すぐに戻って来ると、ペットボトルのお茶を手渡してくれた。
 私は、過呼吸気味になるまで泣き続けていたので、うなづいて返すだけにした。

 ――ああ、もう、江陽と別れてから、泣いてばかりだ。

 ……こんなに、涙腺が弱かったのか。

 感情的になる事はあっても、泣きはしなかったのに。

 しばらくの間、しゃくり上げながら泣き続け、そして、ようやく落ち着いた頃、助手席の窓がノックされた。
 私は、ゆっくりとドアを開け、のぞき込んできた端正な顔を見上げる。

「――落ち着いた?」

「……一応は……」

 そう返してしまうのは、この後、再び泣かない自信が無かったから。
 想真さんは、それでもうなづいてくれ、ようやく、運転席に乗り込んできた。

「――マンションまで、送ろうか」

「……いえ、結構です」

「夜道は危ないよ?」

「――……話題を逸らさないでください」

 彼は、困ったように見つめる。
 私は、それを、にらんで返した。
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