大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
20.振り返る事はできないのだ
 想真さんの提案を、すぐに会社に残っていた神屋課長に伝えると、即座に社長と直通電話で話す事ができた。
 事情を知った社長は、かなりショックのようで、声はいつものような陽気でハリのあるものでは無かった。

『――じゃあ……ボクが、直々に確認するよ』

「え、いえ、でも……」

『会社の長としての役目だからね。――事実を確認して、相応の処分を下す。約束するから』

 その言葉に、一瞬だけ、背筋に冷たいものが流れた。
 ――以前、私が、江陽のストーカーになってしまった、立岩(たていわ)さんにされた事を知った時の、社長と同じ。
 社員を信頼しているからこそ――背任行為には厳しい。
 そうしなければ、他への示しがつかないのを、よくわかっているからだろう。
 社長は、私に、想真さんと電話を代わるように言い、それに従う。
 そして、隣で話している彼も、かなり緊張しているようだ。
 ――まさか、自分が社長相手に説明するとは、思わなかっただろう。

「――ハイ。では、当社社長の方から、月曜にご連絡するよう、申し伝えますので」

 通話を終えると、想真さんは、私にスマホを返した。
「……ありがとうございました……」
 私がお礼を言うと、彼は、苦笑いで首を振った。
「いや、まさか、直接そちらの社長と話すとは、思わなかったよ」
「……すみません。……でも、ウチの会社では、珍しくない事なので……」
「……ホントに?」
 そう言って、バッグにスマホを戻すと、驚いている想真さんを見やる。
「ええ。――社長の行動原理は、好奇心を持ち続ける、ですので――」
 言いながらも、今までの社長の行動を思い出し、口元が上がる。
「……楽しそうだね」
「ああ、いえ――」
 私は、社長のいつもの行動を、少しだけ彼に話してみせると、ポカン、と、口を開けられた。
「……聖は、そんな話してなかったけどね」
「いえ、もう、当たり前すぎて、話題に上る事も無かったのだと思いますよ」
「――スゴイね。風通しが良すぎで、驚いたよ」
「でも、想真さんも、社長が先輩だとおっしゃってましたよね」
 すると、彼は、思い出したようにうなづいた。
「まあね。ウチは、先輩の趣味が高じて、会社を立ち上げたようなものだから」
 聞けば、大学の友人に誘われた食べ歩きサークルで、社長である先輩と出会い、馬が合ってそのまま、ワールドスパイスの立ち上げに協力したのだそうだ。
「オレは、経営とかさっぱりだけど、企画を考えるのは好きだったからさ。ウチの上層部は、大学の先輩と友人だらけなんだ」
 逆に、私の方が、その話に驚く。
 会社というのも、千差万別。そこに勤める人達も――。
 だからこそ、こういう事件も起こりうるのだ。
「――まあ、話は逸れたけど、社長にはすぐに連絡するから」
「ハイ。よろしくお願いします」
「……羽津紀さんには、辛い事になるかもしれないけれど――」
 私は、申し訳無さそうに言う想真さんに、首を振って返す。
「……もう、仕方ないです。……後は、真実がわかれば――それだけで……」
 そう伝えると、彼も、うなづく。

「そうだね。……本当の事は、当事者の口から聞かなきゃ、わからないからね」

 私は、その言葉に、硬直する。

 ――まるで、自分の事を言われているようで。

 だが、車のエンジンをかける想真さんに、気づかれる事は無かった。
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