大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 結局、早退したせいで三連休のようになってしまったが、あの状態で仕事はできない。
 そして――。

「羽津紀ー……大丈夫……?」

「――大丈夫よ」

「いや、羽津紀さん、座ってるのに結構ふらついてるよ?」

 先日の約束通り、聖と一緒に、楠川さんと”縁故”で飲む事になったのだけれど。
 憂さ晴らしも兼ねてになってしまったせいか――少々飲み過ぎたか。
 平衡感覚がおかしい気がするが、どうでもいい。
 同じように飲んでいた楠川さんは、次の注文を終えると、憤りながらグラスを持った。
「しっかし、江陽のヤツ、本気で結婚するのかよ」
「ちょっと、楠川クン!」
 珍しく、イラつきを隠さない彼の言葉を、聖は慌てて止める。
 けれど、私は、五杯目のハイボールを飲み干すと、グラスを、ダン、と、置いた。
「……もう、私に気を遣わなくて良いわよ、聖」
「でもでもー」
「羽津紀さん、オレも、もうずっと、アイツから連絡が無いんだよね。――たぶん、羽津紀さんに繋がるすべてを切られたんだと思う」
 彼は、そう言って、ビールを空ける。
 酒豪の彼は、それ故に、アルコールでストレス発散できないようだった。
「――……羽津紀さん、江陽の事は、もう、忘れようよ」
「……楠川クン、そんな事言わなくても……」
「聖ちゃんにわかる?親友だと思ってたヤツに、一瞬で縁を切られたんだよ。――そんな浅い関係だったなんて、思いたくなかったよ」
 その言葉に、聖は視線を下げ、持っていたグラスを握り締めた。
「――……そりゃあ、アタシだって……羽津紀がそんな風になっちゃったら、嫌だけど……」
「――……あ、ゴ、ゴメン、聖ちゃん。今のは、完全に八つ当たり」
 楠川さんは、慌てて眉を下げ、聖をなだめる。
 彼女は、それに首を振って返すだけだ。
「あのさ……アイツの家の複雑さも、そうしなきゃいけない理由も、わかってはいるんだよ」
 彼は、悔しさに唇を噛みながら続けた。

「――でも、それを捨ててでも、羽津紀さんを選ばなかった事が、一番腹が立つんだ」

「楠川さん」

 彼は、片手で顔を隠す。
 ――その目に浮かんだ涙を隠すように。

「――……あーあ……。……ホント、何で、こんな事になっちゃったんだろうね……」

 そして、いつかも言った言葉を繰り返した。
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