大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
そのまま、しばらくは雑談に花を咲かせる。
もう誰も、江陽の事は、話題に上らせなかった。
これ以上言っていても、気が滅入るだけだから、仕方がない。
せっかくの美味しい料理も、味がしなくなるだけだ。
そして、そろそろお開き、というところで、私は、チラリと楠川さんを見やった。
彼は、珍しく酔いが顔に出ている。
そのくらい、テーブルには、空いたグラスが並んでいたのだ。
「……聖……楠川さんの家、わかる?」
「――……えっと、まあ、うん」
「そう。じゃあ、送ってあげて。さすがに危なそうよ」
「でも」
「私の事は、大丈夫。ちゃんと、意識はあるでしょう?」
少しだけ茶化すと、聖は戸惑いながらもうなづいた。
そして、店の人にタクシーを呼んでもらうと、二人を置いて、私は一人、店を出る。
歩いても数分。酔い覚ましにはちょうどいい距離だ。
すると、マンションへと帰る途中、向かいから声をかけられた。
「――名木沢さん?」
「……片桐さん」
こちらは、男性寮へと通じる道。
どうやら、どこかからの帰りのようだ。
彼は、私へと駆け寄り、のぞき込んできた。
「――だいぶ、飲んでるよね」
「……意識はありますので」
「いや、あっても、真っ直ぐに歩いてないから」
「え」
私は、自分が歩いて来た道を振り返る。
――完全に、車道に出ていた。
この時間、行き交う人も見当たらず、車も通っていない。
裏道の狭さ故か。一本向こうに、大通りがあるからか。
片桐さんは、少しだけ困ったように私を歩道へと促すと――穏やかに微笑んだ。
「……送るよ」
「いえ、大丈夫ですので」
「大丈夫じゃないでしょ。車に轢かれたら、僕の寝覚めが悪くなる」
私は、眉を寄せるが、それ以上は思考が停止した。
「……じゃあ……」
お願いします、とは、言えなかった。
抱き寄せられた温もりは――どこか、懐かしく。
「……もう、良いよね」
「――え?」
「……僕は――いつまで、”戦友”でいればいいのかな――?」
「――……か……かた、ぎり、さん……?」
彼は、私を抱き寄せたまま、愛おし気に頬をすり寄せる。
「――……だから――僕にしておけば良かったんだよ……」
「――……か……」
言葉は――彼の唇に吸い取られた。
「片桐さんっ……!」
思わず突き飛ばし離れるが、彼は、平然と微笑む。
「――僕が、吹っ切れたと思っていた?」
「……そ、れは……」
今までの態度に――何も、感じなかった訳ではない。
でも、もう、過去の事になったのだと――そう、思っていたのに。
――思い込みたかったのに。
「キミが、幸せそうに笑っているんだから、僕達の選択は間違っていなかった。――ずっと、そう、言い聞かせてきたのに」
「片桐さん」
「そんな風に泣き腫らした顔を、見せられる身にもなってよ」
そう言って、私の腕を取る。
「――……は、離して……」
「――嫌だ」
「片桐さん!」
「こんな風になるくらいなら、僕と結婚しよう――羽津紀さん」
私は、全身を硬直させる。
「……え……」
「僕なら――キミをこんな風には泣かせない。約束できる」
その言葉に、心の片隅に追いやった――この人への想いが顔を出す。
私だって――やっと、折り合って出した答えだったのに。
どうして……それを崩そうとするの……?
私は、片桐さんから一歩下がり距離を取る。
「――……無理、です」
「羽津紀さん」
「……私……もう、たぶん――一生、恋愛なんてできません」
そう言って、彼に背を向けた。
先ほどのキスのせいで、頭も身体も、一気に正常な感覚を取り戻した気がする。
「羽津紀さん」
「……お願いですから……名前で、呼ばないで……ください……」
震える声で告げると、私は、駆け出す。
アルコールが回っている気がするけれど、マンションは、もう、すぐそこだ。
「ま、待って、羽津紀さん!危ないよ!」
――待てる訳、無いじゃないですか。
片桐さんの声に、そう返したつもりだった。
――けれど。
ヒザから崩れ落ちた私は、そのまま意識を失ってしまった。
もう誰も、江陽の事は、話題に上らせなかった。
これ以上言っていても、気が滅入るだけだから、仕方がない。
せっかくの美味しい料理も、味がしなくなるだけだ。
そして、そろそろお開き、というところで、私は、チラリと楠川さんを見やった。
彼は、珍しく酔いが顔に出ている。
そのくらい、テーブルには、空いたグラスが並んでいたのだ。
「……聖……楠川さんの家、わかる?」
「――……えっと、まあ、うん」
「そう。じゃあ、送ってあげて。さすがに危なそうよ」
「でも」
「私の事は、大丈夫。ちゃんと、意識はあるでしょう?」
少しだけ茶化すと、聖は戸惑いながらもうなづいた。
そして、店の人にタクシーを呼んでもらうと、二人を置いて、私は一人、店を出る。
歩いても数分。酔い覚ましにはちょうどいい距離だ。
すると、マンションへと帰る途中、向かいから声をかけられた。
「――名木沢さん?」
「……片桐さん」
こちらは、男性寮へと通じる道。
どうやら、どこかからの帰りのようだ。
彼は、私へと駆け寄り、のぞき込んできた。
「――だいぶ、飲んでるよね」
「……意識はありますので」
「いや、あっても、真っ直ぐに歩いてないから」
「え」
私は、自分が歩いて来た道を振り返る。
――完全に、車道に出ていた。
この時間、行き交う人も見当たらず、車も通っていない。
裏道の狭さ故か。一本向こうに、大通りがあるからか。
片桐さんは、少しだけ困ったように私を歩道へと促すと――穏やかに微笑んだ。
「……送るよ」
「いえ、大丈夫ですので」
「大丈夫じゃないでしょ。車に轢かれたら、僕の寝覚めが悪くなる」
私は、眉を寄せるが、それ以上は思考が停止した。
「……じゃあ……」
お願いします、とは、言えなかった。
抱き寄せられた温もりは――どこか、懐かしく。
「……もう、良いよね」
「――え?」
「……僕は――いつまで、”戦友”でいればいいのかな――?」
「――……か……かた、ぎり、さん……?」
彼は、私を抱き寄せたまま、愛おし気に頬をすり寄せる。
「――……だから――僕にしておけば良かったんだよ……」
「――……か……」
言葉は――彼の唇に吸い取られた。
「片桐さんっ……!」
思わず突き飛ばし離れるが、彼は、平然と微笑む。
「――僕が、吹っ切れたと思っていた?」
「……そ、れは……」
今までの態度に――何も、感じなかった訳ではない。
でも、もう、過去の事になったのだと――そう、思っていたのに。
――思い込みたかったのに。
「キミが、幸せそうに笑っているんだから、僕達の選択は間違っていなかった。――ずっと、そう、言い聞かせてきたのに」
「片桐さん」
「そんな風に泣き腫らした顔を、見せられる身にもなってよ」
そう言って、私の腕を取る。
「――……は、離して……」
「――嫌だ」
「片桐さん!」
「こんな風になるくらいなら、僕と結婚しよう――羽津紀さん」
私は、全身を硬直させる。
「……え……」
「僕なら――キミをこんな風には泣かせない。約束できる」
その言葉に、心の片隅に追いやった――この人への想いが顔を出す。
私だって――やっと、折り合って出した答えだったのに。
どうして……それを崩そうとするの……?
私は、片桐さんから一歩下がり距離を取る。
「――……無理、です」
「羽津紀さん」
「……私……もう、たぶん――一生、恋愛なんてできません」
そう言って、彼に背を向けた。
先ほどのキスのせいで、頭も身体も、一気に正常な感覚を取り戻した気がする。
「羽津紀さん」
「……お願いですから……名前で、呼ばないで……ください……」
震える声で告げると、私は、駆け出す。
アルコールが回っている気がするけれど、マンションは、もう、すぐそこだ。
「ま、待って、羽津紀さん!危ないよ!」
――待てる訳、無いじゃないですか。
片桐さんの声に、そう返したつもりだった。
――けれど。
ヒザから崩れ落ちた私は、そのまま意識を失ってしまった。