大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
片桐さんが病室を後にし、残された私は、ベッドの上で涙を流しながら天井を見つめる。
――ああ、また――私は、あの人を傷つけてしまったのか……。
そう思うと、胸がキツく締め付けられる。
その痛みを覚悟して、彼と別れたはずなのに。
私は、ゆっくりと、両手で涙を拭き取る。
そして、懐かしい彼の唇の感触を思い出した。
――それでも――……もう、私には、振り返る事はできないのだ。
この先、江陽への想いを、捨てられるのかは、わからない。
――アイツの、あんな表情を見てしまったら……。
――まだ、私への想いはあるのだと、信じたくなってしまう。
それが、一生、叶う事の無い想いだとしても。
「羽津紀ー、大丈夫⁉もう、ビックリしたよー‼」
検査入院であと一日いなければならなかったので、私は、聖に連絡して、着替えなどを持って来てもらった。
「管理人さん、すぐに連絡ついた?」
「うん。ビックリしてたよ!道で倒れて緊急入院なんて言ったら、こっちが申し訳無くなるくらいに、慌てちゃって」
「……退院したら、すぐにお詫びに行かなきゃ……」
女子寮、男子寮、と、銘打たれているだけで、実質マンション住まいでしかないが、いざという時のために、管理人の方が、すぐ近所に住んでいられるのだ。
「そうだねー」
聖は、ベッドから起き上がった私に、苦笑いでうなづきながら、置いてあった丸イスに座った。
そして、持っていた少し大きめのバッグを、布団の上に置く。
「一応、着替えと下着と洗顔、メイク道具、タオル――ああ、あと、スマホの充電器ね!」
「ありがと。場所はわかった?」
「もちろん!伊達に、丸五年も入り浸っていませんー!」
「威張るところじゃないでしょうに」
私は、ありがたく聖からバッグを受け取ると、彼女に視線を向けた。
「――それより、楠川さん、大丈夫だった?」
彼も、結構な量を飲んでいたのだ。
まさか、私みたいにはなっていないだろうけれど――。
「うん、ちゃんと、朝ごはん食べてたから」
「そう、なら、良かっ――……は?」
あまりに自然に言われたので、スルーしそうになったが。
「……朝ご飯……って……」
「あ」
聖は、反射で口を手でふさいだが、私を恥ずかしそうに見やると、そのまま、両手で顔を覆った。
「――……ゴメン、羽津紀ー……。……えっと……そういう、コト、に、なっちゃって……」
私は、耳まで真っ赤になった彼女を、まじまじと見つめた。
そして、一番、引っかかっていた事を尋ねる。
「……聖……アンタ、ノリとかじゃないでしょうね……」
お互いアルコールが入っていたのだ。
気がついたら、なんて事ではないのか。
すると、彼女は、両手を離して顔を上げる。
その表情は――真剣そのもの。
「違うよ。――……ずっと、いいな、とは思ってたの。……ただ……羽津紀と江陽クンを挟まないと、繋がる事ができない関係だと思ってて……」
私は、先日見せた、楠川さんの表情を思い出す。
――もしかしたら、お互い、同じ事を思っていたのか。
「……いろいろ引っかかる事はあるんだけど、でも――自分達の事を、羽津紀達に投げるような形で決めるのも、違うんじゃないかな、って……」
「――そう。……ええ、そうね……」
私は、心の底から、うれしく思った。
――ようやく、聖も、幸せになれるのだ。
楠川さんなら、彼女の奔放な部分も受け止めてくれるだろう。
「――……良かったわね、聖」
「……うん」
恥ずかしそうに、でも、しっかりとうなづいた聖は、私を真っ直ぐに見つめた。
「だから――羽津紀も、羽津紀の気持ちに正直に生きてよ!アタシ達は、何があっても、絶対に味方だからね!」
「……聖……」
その言葉の意味を感じ取り、涙が浮かぶ。
「……ありがとう……」
そして、そう告げれば、彼女は、相変わらずの、見惚れるような笑顔でうなづいたのだった。
――ああ、また――私は、あの人を傷つけてしまったのか……。
そう思うと、胸がキツく締め付けられる。
その痛みを覚悟して、彼と別れたはずなのに。
私は、ゆっくりと、両手で涙を拭き取る。
そして、懐かしい彼の唇の感触を思い出した。
――それでも――……もう、私には、振り返る事はできないのだ。
この先、江陽への想いを、捨てられるのかは、わからない。
――アイツの、あんな表情を見てしまったら……。
――まだ、私への想いはあるのだと、信じたくなってしまう。
それが、一生、叶う事の無い想いだとしても。
「羽津紀ー、大丈夫⁉もう、ビックリしたよー‼」
検査入院であと一日いなければならなかったので、私は、聖に連絡して、着替えなどを持って来てもらった。
「管理人さん、すぐに連絡ついた?」
「うん。ビックリしてたよ!道で倒れて緊急入院なんて言ったら、こっちが申し訳無くなるくらいに、慌てちゃって」
「……退院したら、すぐにお詫びに行かなきゃ……」
女子寮、男子寮、と、銘打たれているだけで、実質マンション住まいでしかないが、いざという時のために、管理人の方が、すぐ近所に住んでいられるのだ。
「そうだねー」
聖は、ベッドから起き上がった私に、苦笑いでうなづきながら、置いてあった丸イスに座った。
そして、持っていた少し大きめのバッグを、布団の上に置く。
「一応、着替えと下着と洗顔、メイク道具、タオル――ああ、あと、スマホの充電器ね!」
「ありがと。場所はわかった?」
「もちろん!伊達に、丸五年も入り浸っていませんー!」
「威張るところじゃないでしょうに」
私は、ありがたく聖からバッグを受け取ると、彼女に視線を向けた。
「――それより、楠川さん、大丈夫だった?」
彼も、結構な量を飲んでいたのだ。
まさか、私みたいにはなっていないだろうけれど――。
「うん、ちゃんと、朝ごはん食べてたから」
「そう、なら、良かっ――……は?」
あまりに自然に言われたので、スルーしそうになったが。
「……朝ご飯……って……」
「あ」
聖は、反射で口を手でふさいだが、私を恥ずかしそうに見やると、そのまま、両手で顔を覆った。
「――……ゴメン、羽津紀ー……。……えっと……そういう、コト、に、なっちゃって……」
私は、耳まで真っ赤になった彼女を、まじまじと見つめた。
そして、一番、引っかかっていた事を尋ねる。
「……聖……アンタ、ノリとかじゃないでしょうね……」
お互いアルコールが入っていたのだ。
気がついたら、なんて事ではないのか。
すると、彼女は、両手を離して顔を上げる。
その表情は――真剣そのもの。
「違うよ。――……ずっと、いいな、とは思ってたの。……ただ……羽津紀と江陽クンを挟まないと、繋がる事ができない関係だと思ってて……」
私は、先日見せた、楠川さんの表情を思い出す。
――もしかしたら、お互い、同じ事を思っていたのか。
「……いろいろ引っかかる事はあるんだけど、でも――自分達の事を、羽津紀達に投げるような形で決めるのも、違うんじゃないかな、って……」
「――そう。……ええ、そうね……」
私は、心の底から、うれしく思った。
――ようやく、聖も、幸せになれるのだ。
楠川さんなら、彼女の奔放な部分も受け止めてくれるだろう。
「――……良かったわね、聖」
「……うん」
恥ずかしそうに、でも、しっかりとうなづいた聖は、私を真っ直ぐに見つめた。
「だから――羽津紀も、羽津紀の気持ちに正直に生きてよ!アタシ達は、何があっても、絶対に味方だからね!」
「……聖……」
その言葉の意味を感じ取り、涙が浮かぶ。
「……ありがとう……」
そして、そう告げれば、彼女は、相変わらずの、見惚れるような笑顔でうなづいたのだった。