大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
21.この涙も、私が、成長する糧になるのなら
「羽津紀さん、大丈夫⁉」

 聖が着替えを持って来てくれたその後、想真さんが病室に現われた。
 私は、横になったまま目を丸くし、慌てて起き上がる。

「え、あ……の……どうして……」

 戸惑うしかできない私に、彼は、先ほどまで聖が座っていた丸イスに腰を下ろした。
 そして、少しだけ眉を寄せて言った。

「心配だったからに、決まってるでしょ。聖から聞いて、驚いたよ」

「――え」

 そう言って、私を真正面からのぞき込んできた。
 彼の、その近さに、勢いよく顔を背ける。

 ――いや、まだ入院中で、他人様(ひとさま)に見せるような顔をしていないのに!

 けれど、彼は、何を気にするでもなく、微笑んだ。
 ――それは、やはり、聖と兄妹(きょうだい)なのだと、再認識するくらいに、見惚れるもので。
「……でも、まあ、元気そうで安心したかな」
「す、すみません……ご心配をおかけしました……」
「何事も無いなら、それが一番だよ」
 想真さんは、そう言いながら、持っていた小さな紙袋をサイドテーブルに置く。
「お見舞い。あんまり大げさだと、キミ、受け取らなさそうだからね」
 その袋は――見た事の無いデザイン。
 けれど、よく見れば”ワールドスパイス”と印刷されていた。
 もしかしたら、会社専用のものか。
「……あ、りがとう、ございます……」
 戸惑いながらも頭を下げると、彼は、持っていたバッグから、本を取り出す。
「それと、暇つぶし。オレは違うんだけど、友人、結構ケガするヤツが多くてね。入院中はヒマだって言ってうるさいから、よく雑誌とか差し入れしてたんだよ」
 手渡されたそれに視線を向ければ、世界の調味料カタログ、というタイトルだ。
 私は、勢いよく想真さんを見やる。
 すると、彼は、口元を上げ、私に言った。

「勉強熱心なキミには、ちょうどいいかな、ってね」

「あ、ありがとうございます!」

 先ほどよりも大きな声でお礼を言った私に、想真さんは笑った。
 ――思わず、口がポカンと開くほどに――綺麗に。


「――……結構、わかりやすいね、羽津紀さん」


 ククッ、と、喉の奥で笑われ、我に返る。

「……からかってますか、想真さん……」
「いや――可愛い、かな」
「え」
 あっけに取られた私を、彼は、そっと抱き締めた。

 その、気遣われている感触に、硬直する。


「――……どうかな――本当に、考えてみない?オレの事――」



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