大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 自販機に飲み終えたペットボトルを捨てると、私は、片桐さんを振り返った。

「――……片桐さん、次の案……聞きました」

「――……そう」

 私が真っ直ぐに彼を見上げて言うと、驚きもせず、うなづかれた。

「……それで――……受けてもらえるのかな?」

 そして、私の方を見やり、試すように見つめ返してくる。

 ――その()は、私が頼りにしている、”戦友”の彼のものだ。

「……申し訳ありません。……まだ、答えは出せません……」
「それは、三ノ宮くんの事があるから?」
 私は、それに首を振って返す。

 ――江陽の事は――もう、どうしてみようもないのだ。

「長期の出張です。――……いえ、もう、期限は無いんですから、そういう役割なんでしょうね……」

「たぶん、その為に役職が作られると思うよ。――あの社長の事だから」

 苦笑いで言われ、苦笑いで返す。
「ええ、そう思います」

「――僕は、キミの感覚を信じてるから」

 私は、その言葉に、顔を上げた。

 ――まさか。

「……片桐さん、なんですか……?……私に、全国を回るよう、社長に薦めたのは――」
「……まあね。――薦めた、というより、企画書の備考欄に、適任者候補としてキミの名を挙げただけだよ」
「同じ事でしょう!」
 そんな真似をされたら、あの社長が乗らない訳がない。
 片桐さんは、クスクスと笑い、私をのぞき込んだ。

「――ごめんね。……今のキミには、やりがいのある仕事が必要だと思ったんだ」

「……片桐さん……」

 事情をすべて知っている彼に、もう、取り繕う事など無い。
 私は、深々と頭を下げた。

「……ありがとうございます……」

「――まあ、良い返事がもらえる事を期待しているから」

「……それは――まだ、何とも」

 そう返せば、アハハ、と、笑われた。
「片桐さん?」
「さすが――馬鹿正直だなぁ……」
「……褒めてませんよね」
「――いや、うれしいんだ」
「え?」
 彼は、表情を戻すと、私を見つめる。

「――……以前のキミみたいに戻りつつあるね。――……僕が、好きになった、キミに――」

「――……片桐さん……」

 すべてを見透かすように言われ、涙がにじんだ。
 彼は、慌てたようになだめるが、零れ始めたものは止まらない。

 ――ああ、もう、本当に涙腺が弱くなったわ。

 自分でも、あきれてしまう。
 けれど――もう、それに抗おうとは思わない。


 ――……この涙も、私が、成長する糧になるのなら、意味があるのだと思いたいから……。

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