大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「羽津紀さん――なら、僕と結婚しましょう」

「……は……????」

「ちょっ……弟くん⁉」

 翔陽くんは、私の手を取ると、真っ直ぐに見つめてくる。
 それを見た片桐さんは、慌ててそれを引きはがした。
「……邪魔しないでもらえますか、元カレさん」
「いや、ちょっと待ちなってば。何を唐突に……」
「そ、そうよ、翔陽くん。自分で言ってる事、わかってる⁉」
 私達は、何とか彼を正気に戻そうとするが、あっさりと返された。

「――いくら大叔父さんや叶津(かのうづ)さんでも、兄さんと僕の血縁は切れないはずです。なら、弟嫁として、入り込む事は可能でしょう。それこそ、婚約者として紹介すると言えば、会わない訳にはいかない」

「……し、翔陽、くん……?」

 それは――私と、江陽を会わせるため……?

「婚約予定(・・)、なら、キャンセル可能でしょう?」

 ニヤリ、と、まるで、江陽のように、彼は笑う。
 私は、完全に放心状態だ。

「――……ちょうど、兄さん達を、土曜日に昼食に招いています。その時、僕が紹介したい人がいるとだけ言えば、何も不自然じゃない」

「でも、キミの立場は……」

「僕なら、どうとでもなりますよ。――これでも、兄さんが昇龍さんに行っている間もずっと、サングループで経営の勉強を実地でやってますから、簡単には弾かれない自信はあります」

 私と片桐さんは、目を丸くして、翔陽くんをまじまじと見つめる。
「……とんだ高校生もいたもんだね……」
「――……そう、ですね……」

 ――……でも……もしも……江陽が、割り切って彼女との道を選んでいたら――……。

 何をどうやっても、信じたい自分と、臆病になってしまう自分がせめぎ合う。

 すると、不意に、肩が軽く叩かれた。
 顔を上げれば――片桐さんが、優しく微笑んでいる。

「大丈夫だよ。――……自分がした選択なら、後悔しないはずだよ」

「……片桐さん……」

 そして、確認するように尋ねてきた。

「キミは、どうしたいの――名木沢さん?」

 私は、震える小さな声で、答える。


「――……やっぱり……もう一度だけで良いから、江陽に会いたい……です……」


 そう告げると同時に、涙があふれてきた。
 けれど、私は、そのまま翔陽くんの方を向く。



「……私を、婚約者にしてくれるかしら……翔陽くん……?」



 彼の瞳が、一瞬だけ、揺らいだ。
 けれど、すぐに、いつもの彼に戻る。


「承知いたしました。――契約、成立ですね、羽津紀さん」

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