虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
プロローグ
心地よくぽかぽかとした穏やかな日差しが部屋に降り注ぐ。
小鳥のさえずりは今日も騒がしく、起きたくないと駄々をこねる私を容赦なく叩き起こす。
爽やかな朝とは反対に、どよんとした目元に覇気のない表情を浮かべた私、クラリス・フォートレットは、渋々ベッドから這い出した。
カーテンを開ければ、大きな窓からさんさんと降り注ぐ太陽の光。
普通の人なら、「さあ!今日も気持ちの良い一日のはじまり!」なんて、清々しい気持ちで部屋を飛び出すのでしょうけれど、私は暗い気持ちのまま身支度も早々に自室を飛び出した。
「急がなくては……」
寝巻から着替えたボロボロのワンピースの上にエプロンを付けながら、厨房へと向かう。
「お、おはようございます……」
長く伸びた前髪で顔を隠しながら、小さく呟くように挨拶する。
「おはようございます、クラリス様」
私がそそくさと厨房へ入ると、もうすでに侍女達が朝食の準備を始めていた。
大きな城にしては数の少ない侍女達に混ざって、この国の第三王女である私も朝食の支度を開始した。
ここは北に位置する小さな国、アレス国。
鉱脈や資源が豊富ではあるけれど、世界一寒いと言われている小さな国である。
そしてこの城は何を隠そう、そのアレス国の国王が住まう城だ。
私は現国王の正当な血筋である、第三王女のクラリス・フォートレット。
私には、血の繋がらない姉が二人いる。
第一王女のマリア・フォートレット。
第二王女のユリア・フォートレット。
二人の義姉は、双子である。
私が第一王女であったのは、生まれて数年の間だけ。五歳くらいまでだったかな……。
私を生んでくれた母が病気で亡くなって、数日後に一人の女性と二人の姉がやってきた。
気が付けばこのアレス国は、どこから来たのかも分からない、私の義母クリスティーナとマリア、ユリア義姉妹に乗っ取られていた。
小さい私は訳も分からないうちに、第三王女になっていたというわけ。
クリスティーナを筆頭に、マリア、ユリア姉妹は好き勝手し放題の生活。
あらゆる国からあらゆる高価な洋服や宝石を取り寄せる日々。
気に入らない侍女がいれば簡単にクビにして追い出すので、たくさんいた侍女や召使い、コックに庭師まで、次々に屋敷を出て行った。いや、出て行かされた。
そんな好き放題の義母達を、現国王である私の実の父、サビウス国王は特に咎めることもせず、ただただ好きなようにさせている。
幼い頃は庭や屋敷を駆け回っていた私も義姉達のやりたい放題の態度に、こちらに火の粉が降り注がぬよう、自室に籠ることが多くなった。
後から突然この城にやってきて、私よりも王位継承順位が高いことに少し納得のいかない部分もあったけれど、義姉妹二人の役に立てるよう、幼い私は色んな知識を付けておこうと勉学に向き合っていた。
しかし、双子のお姉様達の態度は成長するにつれ酷くなる一方で、その矛先はついに私へと向かってきた。
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