虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
「クラリス、あんた料理好きだったわよね?」
とある日の午後。あれは確か、十年前の、私が七歳になった頃のことだ。
急に呼び出されたと思ったら、マリア姉様にそんなことを言われた。
「え?あ、はい……作るのは、好きですけど……」
「このシフォンケーキ激不味なの! これを作った侍女はクビね!」
隣でユリア姉様が放った言葉に、傍に立っていた侍女がびくりと肩を揺らした。
「クラリス、あんたが代わりに作ってみて」
「え?私がですか……?」
「そうだって言ってんでしょ!? いいから早く作ってきなさいよ!」
戸惑う私に、お姉様達の容赦のない罵声が降り注ぐ。
この頃からだ。お姉様達の態度が酷くなったのは。
この城に来た時こそ、お義母様もお姉様方も優しかったのだけれど、私に対する態度は日に日に酷くなっていった。私も姉妹であるはずなのに、まるで侍女だとでも思っているかのような扱い。
私は向けられる鋭い視線や、大きな声がとにかく怖くて、何も言い返すことが出来なかった。
「うーん、まぁまぁね」
「侍女よりマシって程度」
私の作ったシフォンケーキと紅茶を品もなくずずずと音を立てて啜りながら、お姉様達はそう評価した。
「まぁいいわ、今度からあんたが作りなさい」
「え?」
「え、じゃないわよ! あんたが私達のご飯を作れって言ってんの! 何度も言わせないで」
マリア姉様とユリア姉様二人から睨まれて、私は文字通り蛇に睨まれた蛙状態だった。
また別の日。お姉様達に言われたように、厨房でお菓子を作っているとお義母様が驚いたようにやってきた。
「クラリス?」
「お義母様……」
何を言ってくれるのかと思ったけれど、お義母様の口から出たのは、彼女らしい言葉だった。
「貴方が料理しているの? まぁなんてぴったりなのかしら! そのぼろぼろのエプロンもよく似合うわ! 貴女は王女というより、侍女って感じですものねえ!」
綺麗に笑っているような表情を作っていながらも、目だけは決して笑っておらず、ゴミでも見るかのように心底不快そうに私を見下ろした。
その言葉を聞いた時、ああ、この新しいお母様は、決して私を愛してはくれないのだろうな、と幼心に気が付いてしまった。
そして、もうこの屋敷には私を愛してくれる人など、誰一人いないことも。
ああ、私はやっぱり必要とされていないんだ。お父様からも見捨てられてしまった……。私は家族じゃないの……? もう誰からも愛してもらえないの……?
それから時が経つにつれ、お義母様とお義姉様の態度は横柄になるばかり。
お父様に媚びを売っては欲しい物を買ってもらい、勉学は私に押し付け、お菓子だけでなく、ご飯すらも私に作らせるようになった。
お父様はそんな風に扱われている私を知っていたはずなのに、何も言葉を掛けてくれることはなかった。
大好きだったお父様は、お母様が亡くなった時にいなくなってしまったんだ……。
もちろん落ち込んだし、悲しかった。
一人で過ごすことの多くなった私は、どんどんと卑屈になり、気付けばネガティブな思考に捕らわれるようになった。
どうせ私なんかが頑張ったところで、お義母様もお姉様方も優しくなったりなんてしない。
私が勉強も出来て、情勢に詳しかったところで、この国を動かせるわけでもない。
今日も嫌なことを言われるに違いない。
私はこれから先も誰にも認められないに違いない。
「……お母様…………」
亡きお母様にどれだけ助けを求めても、当然何も変わらなかった。
こうして私は塞ぎ込むようになり、お義母様やお義姉様達に言われたことを淡々とこなすだけの、侍女以下の扱いを受ける身になったのだった。