魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「私は、アリーセを森の家に引き留めるために監視者に選ばれた」

 あの森の中の家で一人暮らすアリーセ。彼女に、年が近い優しい男を近づける。なんとなく意図が見えてレナールは顔をしかめる。

「私は彼女の役目も知っていた。けれど、彼女を見て、本当にやり方が正しいのかわからなくなった。だから」

 本当にジギワルドは優しい男だ。それこそ、好いた女性のために彼女の手を離すことができるほど。ある意味それをレナールはうらやましく思う。
 自分には絶対にできないから。

「私と兄上は、この国に魔法を広めたいと思っている。その意思は同じだと思っていた。だが、違った。私は、魔法が暴走しやすいということも公表して、有識者に話を聞くべきだと思っている。たまたま今まで聖女が途切れず生まれていただけで、それが今後も続くかなんてわからない。何故、この辺りだけ魔法が不安定なのか。何か理由があるはずだ。それを調べないと根本的解決にはならない。けれど、兄上はそれを国の弱みを見せることだと嫌がった」

 聖女がいれば魔法が安定して使えるのはわかりきっている。わざわざそんなことを公表する必要はない、と。
 ぐっとジギワルドが拳を握った。まっすぐにレナールを見据える。

「子爵。兄上はどんな手を使ってでもアリーセをラウフェンに引き留めるつもりだ。兄上は為政者だ。たぶん、手段は問わない」
「それで――アリーセは?」

 ジギワルドがわざわざレナールの元に現れたと言うことは、既にブラッツが行動に出ている可能性は高いだろう。

「先ほど部屋を訪ねたときには既にいなかった。場所に心当たりはある」
「殿下。私を連れて行ってください」

 最初からそのつもりだったのだろう。ジギワルドがうなずいた。
 ――ただ、嫌な予感がする。
 何故、ブラッツはジギワルドにアリーセを狙うそぶりを見せたのか。
 彼ほどの人間なら、弟に隠し通すことなど可能だろう。
 ただ、ブラッツにどんな思惑があろうと、レナールはそれに乗らないわけにはいかない。
 絶対にアリーセをピリエに連れて帰るのだから。

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