女王陛下は溺愛禁止!

 夜、自室に下がったアンジェリアは大きなため息をついた。
 本を読む気にもならず、バルコニーへと出る。

 空には満月が出ている。
 空気は澄み渡っていて、真昼と錯覚しそうな透明な光に影が濃い。

 ベンチに掛けると昼間のあれやこれやが頭をよぎった。
 大使から結婚を迫られた後、執務室で書類を確認し、サインをする。

 その中の一枚に、死刑執行書があった。
 サインをすれば、数日後には執行される。
 人ひとりの命を奪うのに紙一枚、サインひとつですまされてしまうようで怖ろしい。

 自分はまだいい。
 実際の執行人はどれほどの苦しみを抱えて過ごすことになるだろうか。その想像は陰鬱にアンジェリアを苦しめる。
 死刑制度の廃止を検討したこともあったが、多くの反対にあった。終身刑では囚人を税金で賄うことになり、国民の同意を得られない。また、死刑は遺族や事件への遺恨を持つ者たちへの溜飲を下げるためでもあるし、犯罪抑止のためにもなくせないという。

 そうして死刑は存続し、自分は人の死を命じる。
 手を下すのは別人だったとしても、命を奪っていることに変わりはない。
 治安のためだとわかってはいるが、葛藤は残る。

『陛下の責がではございません』
 いつだったか、ラドウィルトはそう言った。

『死刑は法で決まっていること。わかっていて罪を犯したのですから、責は本人にあります』
 過去の叛乱のことでも彼は言う。

『叛乱を起こしさえしなければあたら命を失うことはありませんでした。責は彼方にあります』
 慰めは、しかし心を軽くはしてくれなかった。
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