女王陛下は溺愛禁止!
 彼はメイドから大きな包みを受けとり、並べられた絵画の前に立てかけた。
「追加の姿絵が届きました」

「どうせまたぎらぎら孔雀であろう」
「そうおっしゃいますな」
 ラドウィルトは包みを破り、見せる。
 アンジェリアは軽く驚きを見せた。

「随分と質素だな」
 木の深い色合いを活かした細身の簡素な額だった。金銀宝石の象嵌はおろか彫刻の装飾もない。描かれた人物の服装もシンプルだ。
 だからこそ画家の技量が試される。美麗で繊細な筆使い、画家の技術の粋を極めた姿絵。

 きりりとした顔立ちに、キャラメル色の髪は一本一本描かれたかのように流麗だ。強い輝きを秘めたセピアの瞳は誠実さと知性を感じさせ、かといって柔弱(にゅうじゃく)ではない。胸板には服越しの筋肉を感じるし、腰につけた質実剛健な剣にすら武の自信が溢れている。

「これは……うまいな」
 絵のことだけではない。アンジェリアに送られる多数の姿絵とその額縁、それらを予想し、印象に残るためにその逆を狙ったのだろう。賑やかを通り越してうるさい主張をする姿絵の中にあって、返って目立つ存在となっていた。
 むしろこちらの審美眼を試す挑戦的な気配さえある。これを見抜けない女に用はない、と。

「しかも……に似ている」
 そのつぶやきは小さくて、ラドウィルトには届かなかった。
「ようやくお眼鏡にかないましたか? しかし、この姿絵、名前がございませんね」
 ラドウィルトは額の裏を確認する。ほかの姿絵は裏に肖像の人物名のほかに本人のアピールポイントが記されているが、これにはなにも書かれていない。

「それも気をひくための策であるやもしれぬな。小細工が多いことよ」
 アンジェリアはどうでもいいことのように言い、紅茶を飲み干す。
「絵画鑑賞はこの程度で良かろう。そろそろ先祖伝来の儀式の時間だ」
 アンジェリアはゆったりと椅子から立ち上がった。
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