女王陛下は溺愛禁止!
 誰にも知られずに花瓶を落とすとか。
 そんなことも可能ではないだろうか。

「気を付けないとねえ」
 エアは宙を浮いて、すうっと階段を降りて来る。
「死んじゃったらなにもできないんだから」
 彼はくすくすと笑いながら立ち去る。
 ラドウィルトは顔をしかめてその背を見送った。

 神学者や神官からの報告によると『エア』という神の名は伝書のどこにもなかった。神がどこからどのようにして生まれるのかもわからないという。引き続き文献を当たらせてはいるが、真の名はおろか『エア』すら見つけることはできないだろう。

 ふと、視界のすみにメイドが映る。
 目が合うとそのメイドはぎょっとした顔をして踵を返した。
 亜麻色の三つ編みに眼鏡。ラドウィルトはなんとなく警戒してその姿を記憶に残した。

***

 彼女はやきもきしていた。
 クライドはうまく立ち回っているようだが、まだ油断はできない。
 彼が国へ帰ってしまえば計画は頓挫してしまう。

 その前にとどめを刺してほしい。
 そのために情報を流しているのだから。
< 86 / 204 >

この作品をシェア

pagetop