飴ちゃん食べる？～よろしく焼肉ホスト部♡

　辺りはまるで、動画が停止したかのように静まる。

　今一番やってはいけない暴力、本格的な喧嘩が始まるきっかけ。

壊れかけていたものを、完全に壊してしまった。もしも私が壊していなければ、最強の三つ子が上手く修正して元通りに戻していたのかもしれない。

　逃げたい。今すぐにこの場から逃げ去りたい。だけど動けない。

　痛い視線がたくさん突き刺さる。
　痛い、痛いよ……助けて――。

　私は無意識に……天野スミス唯を見つめた。天野スミス唯が、一歩一歩、ゆっくり近づいてくる。

「栗谷川……」

　私の名前を呼んだ天野スミス。彼は私の目の前で立ち止まり、続けて言った。

「俺の彼女になって？」
「……はっ？」

　今、私は告白された？
　なんで？　どうして今なの？
　本当にどうしてこのタイミングで告白してきたの、天野スミス唯――？
　
「最強の三つ子、天野スミス唯さんが今、告白したぞー！」
「告白だ！　告白だー！」
「おめでとうございやすっ！！！！」
「わっしょーい！！」

　次々とヤンキーたちが歓声をあげた。

「あの、天野スミス唯が告白？」と、喧嘩していた3年ヤンキーたちも驚いている。

　静まり返っていたけれど、いつものようにお祭りわっしょいな日常が一瞬で戻ってきた。いや、それ以上のお祭り騒ぎ。

「はははっ！」

　天野スミス唯は楽しそうに笑った。そして耳元で「これで栗谷川がヤンキー投げ飛ばしたの、みんなの記憶から消えるだろ？　栗谷川、カッコええな！」と呟くと、私の手を強く握って走り出した。

　前も、こんなことあったな。
　あの時は手を握られて、どうしようと気持ちが揺れてしまっていたけれど。

　この手を離したくない。
　私は天野スミス唯の手を強く握り返した。

　ずっと天野スミス唯と、一緒にいたい。
　気持ちはもう、揺るがない！