恋は揺らめぎの間に




ちゃんと、断れなかった…。

慶人君からもらったバレンタインのお返しのプレゼントを手に、深く、深く溜め息をついた。

女性は初めての恋を忘れられないとは聞くが、慎司君のことを好きかもしれないと思った今もそうだなんて、なんとも情けなく思った。一方で、押しに弱いといえばそうなのかもしれないが、諦めた初恋の人から好意を向けられて、喜ばない人などいるだろうか。無碍にできる人はいるのだろうかとも思う。

…………だけど、いるんだろうなぁ。

わかっている。わかっているのにできない自分が凄く嫌いだ。



「「はあ…。」」



チンとエレベーターが家のある階に着いたことを知らせる。溜め息のタイミングが、開いた扉の前に立っていた人と重なった。女性だった。

恥ずかしくて、そそくさとその横を過ぎようとした時、



「あ! あなた!」



腕を掴まれた。




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