あの子の成績表
始めてみた時驚くほど綺麗だったその人は、もうここにはいません。
まるで妖怪のような顔をした女性がそこにいました。
「ひっ!」

思わず悲鳴を上げた時、正樹が走ってきて私の手を掴みました。
「逃げるぞ!」
一言そう言い、一気に廊下へとかけ出ました。

後ろから大輔くんのお母さんが大声を上げながらついてきます。
だけどなにを言っているのかは聞き取れませんでした。
それはまさに獣の咆哮。

息子を失ったあまり人間ではなくなってしまった女の姿でした。
私はたちは自分の靴をそれぞれ手に持つと外へ飛び出しました。
前に濡れた地面のせいで靴下が汚れるけれど、そんなこと気にしていられません。

走りながら自転車の鍵を取り出し、前カゴに靴を投げ込むとすぐに自転車にまたがりました。
「お前達だって評価されてるんだ! 気が付かないうちになぁ!」

玄関から出てきた大輔くんのお母さんの叫び声から逃げるように、私達は下り坂を一気に駆け下りていきました。
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