ただ、一面の青。
見覚えはあるけど誰だったかなと記憶を遡っていれば、瀬戸が隣から「3つ前の元カノじゃん」と耳打ちをする。
「お前よく覚えてんな。こわ」
「失礼な。自衛だよ、自衛」
「何それ」
「リンと一緒にサクの元カノ記録してるんだよね。争いに巻き込まれた時用に」
丁度今みたいに、と瀬戸が笑った。
女に視線を移せば、「サク、噂嘘なんでしょ?」と潤んだ瞳が向けられる。その表情に安心感を覚えた。
そうだ。俺は泣き顔くらいじゃ心が揺れない。大丈夫、俺はいつも通りだ。
ふっと笑ったのを相手はどう思ったのか「サク…」とすり寄るように体を近づけた。派手なネイル。厚い化粧。甘ったるい匂い。
「転校生と付き合ってないなら、今フリーでしょ?もう一度私と付き合って」
「なんで?」
「何でって…サクが忘れられないの。サクが好きなの」
「それ、俺に得ある?」
「う、煩い事もう言わない!余計な詮索もしない!浮気も許すから、ね、お願い。サク、私を選んでよ…」
同じ「お願い」なのに菜乃花とは違う。
同じ「好き」なのに菜乃花とは全然違う。
あいつはもっと声が震えてた。もっと俺の目を見て、もっと必死だった。
菜乃花は、もっと、俺の心を揺さぶった。
胸に沸いたのはひどく歪な感情。
あいつを見張らないと。俺の心を乱して平和を脅かすあいつを一番近くで。
「噂、嘘じゃないよ」
これは決して『好き』とかそんな甘い感情じゃない。もっと激しい『怒り』。
「俺付き合ってるから。植草菜乃花と」
俺は絶対に菜乃花なんて好きにならない。