Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 慧弥の行きつけと言うからには、きっと高級店に違いない。専門の美容師さんに、このほとんど手入れしていない髪を触られるなんて、恥ずかしいことこの上ない。

 しょんぼりと縮こまり、膝の上でバッグを握りしめた。口数が少なくなる想乃を見て、慧弥が左手を伸ばした。想乃の手に触れて「ごめんね」と謝られる。「え」と呟き、俯けた顔を上げた。

「色々と押し付けがましくて。こっちの都合で合わせてもらうのは窮屈だよね」
「っそ、そんな……」
「次のデートはちゃんと想乃の行きたいところにも連れて行くから」

 ね? と言って微笑まれると申し訳なさでいっぱいになる。なにも格式の高いお店へ行くのが嫌という訳ではない。ただ、彼とは金銭感覚が全く違うことや、ちっぽけな自分を再認識することに居た堪れないのだ。

 想乃はううん、とかぶりを振り「色々とありがとうございます」と礼を言った。

 彼の勧める美容院へ着き、担当美容師さんが丁重に挨拶をしてくれる。女性の方だった。

「彼女は俺の大切な女性(ひと)だからうんと綺麗にしてもらえる?」
「かしこまりました」

 施術を受ける椅子へ案内される前に「想乃」と名前を呼ばれる。婚約指輪の填まった左手を取られた。
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