Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「気にいるものがあって良かったね」

 慧弥に手を繋がれて歩き、想乃は大人しく顎を引いた。駐車場へ着いてから再び助手席でシートベルトを閉めた。

「すみません、何から何まで」

 隣りに乗り込んだ彼を上手く見れず、そう呟いていた。「なにが?」と彼が訊き返す。

「グランドピアノなんて……あんなに高価なものまで買っていただいて」
「いいよ。俺が好きでしていることだから」

 嘘のない慧弥の笑みを見ていると、やはり申し訳なく思ってしまう。自分自身にそこまでしてもらう価値があるのかどうか、どうしても考え込んでしまう。

 慧弥がハンドルを握り、シフトレバーをドライブに入れた。

「それに、想乃にはふたつお願いしたいことがあるから」
「……え?」

 膝の上で握りしめた鞄からふっと目を上げる。にこっと笑う彼と目が合った。

「父の還暦祝いパーティーでピアノを弾いてほしいんだ。曲目は想乃の好きなもので構わない。当日まであとひと月あまりあるし、練習しておいてほしい」

 いいかな? と目で聞かれてしずしずと頷いた。わかりました、と了承する。きっと当日は緊張するだろうが、自分にできることなのだから、それぐらいのことは引き受けて然るべきだ。「ありがとう」と慧弥が微笑む。

「それで……もうひとつは?」

 お願いしたいことのふたつ目を尋ねると「それはまだ形になっていないから」とはぐらかされた。
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