Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 感情が(たかぶ)り両手で顔を覆った。彼が隣りで小さく息をつくのを聞いた。

「……お母さんの入院はいつまで?」
「……え」
「今の病院」

 想乃は目頭を赤くし、唇を震わせた。頬にこぼれた涙を手の甲で拭い「一年」と呟く。

「本当なら半年で出なきゃいけなかったんだけど、一年に延長してもらって。今のまま改善が見られなかったらまた転院先を探さなきゃいけないの……」
「……そっか」

 慧弥はひとつ頷き、思案顔を浮かべた。

「南沢記念総合病院、だったよね? お母さんの入院先」
「はい」
「俺も一緒に行っていい? お母さんのお見舞い」
「……あ、はい。勿論です」

 隣りで慧弥が立ち上がり、依然として座り込む想乃に手を差し伸べた。

「じゃあ今から行こう」
「……っえ」

 想乃は声を詰まらせ僅かにたじろいだ。慧弥の手を取って立ち上がり「いいんですか?」と聞いてしまう。

「うん。想乃を悲しませる要因をこのまま放置したくないからね」

 そう言って微かに笑う彼と目が合った。驚きからすっかり涙も引っ込み、ただ頷いた。慧弥に手を引かれて、そのまま病院へ向かうことになった。
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