Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜


「一件だけ仕事の電話をしたら行くね?」

 想乃を助手席に乗せると、慧弥がそう言って外で電話をかけ始めた。手短かに済む用件だったらしく、すぐに運転席に乗り込んでシフトレバーをドライブに入れた。

 病院の地下駐車場で停車する。慧弥に続いて車から降り、想乃は階段に足をかけた。一階の玄関で入館証をもらい、四階のナースステーションで見舞いの許可を得る。

 404号室の扉を開けると、母はいつもと変わらない様子で虚空を見つめていた。窓が少しだけ開いていて、空気が澄んでいる。

「お母さん、来たよ」

 母に声をかけて近くに丸椅子を二つ置いた。細く目を開けたままの母からは、やはり何の反応も見られない。

「今日は土曜日だけど。コンビニのバイトを入れていないから慧弥さんが連れてきてくれたんだよ」

 そう言って隣りに立つ彼にも椅子を勧めた。慧弥はやんわりと笑い、首を横に振った。椅子を断る彼を見て想乃はきょとんとする。

 慧弥は立ったままで想乃の隣りに並び、母に自己紹介をした。「今、想乃さんとお付き合いをしています」の言葉には少しだけ頬が熱くなった。「想乃」と彼に名前を呼ばれる。

「お母さんの事故からそろそろ四ヶ月が経つよね?」
「……はい。そうですけど……」
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