Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 時おり母がまばたきをする。想乃は母の表情を見つめ「ねぇ、お母さん」と再び語りかけた。

「覚えてる? 郷が生まれたときのこと。家族四人でテーマパークに遊びに行ってさ……私が()ねてはぐれたこと、あったよね」

 当時、想乃は七歳。弟が誕生してお姉ちゃんになったという喜びももちろんあった。けれど、これまで自分中心であった母の心が弟にだけ向けられるようになったと感じて、積もり積もった寂しさから赤ちゃんの郷にやきもちを妬いてしまった。

 きっかけはほんの些細なできごと。「さっき見たおもちゃが欲しい」という、自らの要求を母に伝えようとしたタイミングで郷がぐずり、想乃は言葉を飲み込まざるを得なかった。普段から我慢をしていたこともあり、邪魔をされたと感じて思わず郷の頭を叩いていた。

 どうしてそんなことをするの、と当然怒られた。想乃はぐちゃぐちゃに渦巻く鬱憤をうまく言葉にできず、家族の元から走り去っていた。

 家族連れやカップル、友達同士のグループで混み合う休日のテーマパーク。今思えば急にはぐれた子供を探すのは、さぞかし大変だっただろう。心配する両親を思うと本当に申し訳ない気持ちになった。

 しかしながら、そんな親の気持ちを慮ることができないほどに自分もまだ幼かった。
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