Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
少女の想乃はテーマパークの入り口をくぐった先にあるおもちゃ屋へ駆け込んだ。ショーウィンドウに飾られた赤い、32鍵のグランドピアノのおもちゃを間近に見つめ、欲しいと心の底から思った。
小学生が弾いて遊ぶおもちゃの割には値段も高く、表示された数字の羅列を見て静かに息を呑んだ。5桁の数字を見ていったいいくらになるのだろう、と指折り数えた。
ピアノのおもちゃを前にし、途方に暮れる想乃を見つけたのは、母、江里だった。想乃は大きく目を見張り、お母さんと呟いていた。
通りを歩いていたとき、娘の視線がガラス越しに飾られたピアノへ注がれていると母はとうに気づいていた。想乃に「欲しいの?」と尋ね、なにも言わずに買ってくれた。弟にとってしまった態度については少しも咎められなかった。
「お母さんが買ってくれたあのピアノがきっかけで、私、ピアノを習うようになったよね。今でもピアノを弾くのが大好きなんだよ? 全部お母さんのおかげ」
母の漆黒に染まった黒い瞳をじっと見つめる。目が合っているのかどうかもわからない。「お母さん」とまた呼びかける。
「お願いだから。早くよくなって。私またピアノを弾くようになったから……お母さんの好きな曲、たくさん弾くよ? また笑って聴いてほしいよ」
小学生が弾いて遊ぶおもちゃの割には値段も高く、表示された数字の羅列を見て静かに息を呑んだ。5桁の数字を見ていったいいくらになるのだろう、と指折り数えた。
ピアノのおもちゃを前にし、途方に暮れる想乃を見つけたのは、母、江里だった。想乃は大きく目を見張り、お母さんと呟いていた。
通りを歩いていたとき、娘の視線がガラス越しに飾られたピアノへ注がれていると母はとうに気づいていた。想乃に「欲しいの?」と尋ね、なにも言わずに買ってくれた。弟にとってしまった態度については少しも咎められなかった。
「お母さんが買ってくれたあのピアノがきっかけで、私、ピアノを習うようになったよね。今でもピアノを弾くのが大好きなんだよ? 全部お母さんのおかげ」
母の漆黒に染まった黒い瞳をじっと見つめる。目が合っているのかどうかもわからない。「お母さん」とまた呼びかける。
「お願いだから。早くよくなって。私またピアノを弾くようになったから……お母さんの好きな曲、たくさん弾くよ? また笑って聴いてほしいよ」