Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 グス、と静かに洟をすすり俯いた。病室に沈黙が下りた。想乃は膝の上に置いた鞄を握りしめ、さめざめと泣いた。涙の粒がひとつふたつと落ちて、鞄の中からハンカチを取り出した。

 慧弥が病室を出てから半時間以上が過ぎたころ、コンコンと扉がノックされた。想乃は焦って取り繕い「どうぞ」と返事をする。病室の扉がそろりと開いた。

 慧弥とともに白衣を着た男性医師が入って来る。縁のないメガネをかけた彼は藤川という医師で母の担当医だ。事故直後、母の手術を手がけ、病状についても詳しく説明してくれた。

 慌てて立ち上がり、想乃は藤川に頭を下げた。

「ごめんね、想乃。ずいぶんと待たせてしまって」
「あの、慧弥さん。どうして藤川先生と……?」

 うん、と頷き慧弥が藤川に視線を送った。「浅倉さん、ご無沙汰しています」と挨拶をされた。どうも、と再び会釈する。

「以前からナミキホールディングスさんの提案を受けておりまして。先日新たな医療を取り入れようという流れになりました。浅倉さんご本人はまだ聞き及んでいないと聞いておりますが、並樹さんからそういったお話は……?」
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