Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「……いえ。全くなにも?」

 言いながら小さく首を振る。想乃は不安そうに眉を下げて慧弥へ視線を送った。新たな医療とはいったいなんのことだろう。彼は穏やかに頷き「あのね」と優しく話してくれる。

「実は会社で医療に関する事業を立ち上げようとだいぶん前から話を進めていたんだけど。許認可を取得するまで時間がかかっちゃって、黙っていたんだよね」
「……はい」

 なにを、と訊きそうになった。想乃は頷き、慧弥からの説明を待った。

「想乃は“音楽運動療法”という言葉を聞いたことはある?」
「……音楽、いえ。初耳です」
「スマホでググればちゃんとした説明が出てくると思うけど。音楽運動療法は、脳を損傷した患者に対して臨床的な効果が得られる新しい医療のひとつなんだ。音楽の特性を活かしたリハビリの一環なんだけど。今現在、これを取り入れている病院も、少数だけど存在する」

 慧弥の説明に対して、隣りで聞いていた藤川がどういう内容なのかを詳細に教えてくれた。

 治療にはピアノやサクソフォンを使った生演奏が必要で、同時にトランポリンを使った上下運動による刺激を脳幹に与えることで覚醒反応と認知反応を促すらしい。この療法を発症から半年以内に開始すると優れた改善が見られる、そんなデータも取られているそうだ。
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