Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 半年以内、と胸中で呟いた。想乃の母は事故から四ヶ月ほどしか経っていない。つまり母に対して(くだん)の療法を実施すれば、何かしらの効果が期待できるかもしれない、そういう話だった。

「実際に見てきて知ったんだけど、想乃のお母さんのような植物状態から、めざましく回復した症例もいくつかあってね。効果が得られれば歩行なんかの運動機能とか、話したり歌ったりするような認知機能の改善も見られるようだよ」
「……っえ!」
「まぁ要するに。それを実施するにあたって想乃のピアノが必要だという話」

 さらりと言ってのける慧弥を見つめ、わ、と声を詰まらせた。

「私のピアノで? 本当にそんなことが?」
「できるよ。治療については患者家族の同意さえあれば、近日中にでも実施できる」

 これは夢だろうか。事故から四ヶ月。なんの反応も得られず、回復は絶望的だと看護師の間でも囁かれていたのに。想乃は若干うろたえ、瞳を曖昧に泳がせた。

「……でも。先生からは回復の見込みはないって。これ以上の医療措置はなにもできないって、言われてて」
「今の南沢ではね?」
「え……」

 残念そうに眉を下げる慧弥同様、担当医の藤川も小さく頷いた。想乃を見て彼が申し訳なさそうに息をついた。
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