Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 訝るような視線を受けて、やはり縮こまってしまう。そう言われてみればそうだ。婚約者というのは所詮建前に過ぎないので、どうすることもできないけれど。黎奈の言うとおり、これまで慧弥に関することを何ひとつ聞いてこなかった。

 決して彼に興味がなかったわけではない。ただ彼が依頼主であり、彼に雇われているという関係上、個人的な質問をするのはなんとなく(はばか)られたのだ。ふりをしている以上、本物ではないので、対等に接することなど考えられなかった。

 膝に置いた手を見つめながら「婚約者です」と想乃は続けた。

「慧弥さんのことは大好きです。心から尊敬もしています」
「へぇ、好きなのに知りたいと思わないんだ?」
「……いえ、そういうわけじゃっ」

 言いながらふっと顔を上げた瞬間。赤く潤んだ想乃の瞳が頼りなく揺らいだ。あ、と声を発して、黎奈を通り越した向こうを見ている。

 その視線から察して、黎奈が面倒くさそうに振り返った。

「なにやってんの」と不機嫌そうな声が言った。

 病院内のカフェに着いた慧弥が想乃たちのテーブルへ近づき、姉の隣りで足を止めた。弟を見上げているはずの黎奈だが、体をやや後ろへ倒しふんぞり返っている。

「誕生日おめでとう、慧弥」
「……ありがとう。他に言うことは?」
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