Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 信号を半分まで渡って拾い、男の子にボールを手渡すと「ありがとう」と満面の笑みでお礼を言われた。「どういたしまして」。男の子に手を振りながら想乃はホッと胸を撫でおろしていた。そのまま彼はまた公園内へ戻って行く。

 ーー【想乃さん、あなたにならきっと助けられる】

 男の子の小さな背を見つめ、ふとメールの文章を思い出していた。想乃はぶらりと下ろした手をきゅっと握りしめた。なんなの、と思ってしまう。

 いったい、なんなの。やめてよ……っ!

 再び赤に変わった歩行者信号を睨むように見つめる。知らず、下唇を噛んでいた。

 だったら、もっと早く。それこそ三ヶ月以上前に知らせて欲しかった。“あの事故”を予知してくれていたら、そうしたらお父さんとお母さんは……!

 視界がわずかにぼやけて瞼を伏せる。

 想乃の頭の中で映像がコマ送りになった。

 今から三ヶ月前の七月上旬。両親は二十周年の結婚記念日であるその日に、夫婦水いらずの旅行を計画していた。父と母は子供たちの成長を頼もしく思い、三日間の留守番を、二十歳(はたち)になったばかりの想乃と、中学一年生の郷に任せた。想乃は両親を快く送り出した。

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