Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 だけど、彼に恩を感じているのは事実だ。自分のことだけじゃなく、郷のいじめ問題の解消や母の治療に尽力してくれた。あれを忘れることなんてできない。

 戸惑いからメールを打つ手がすっかり止まってしまった。どんな返事を返せばいいのかわからない。安易に反発することもできない。再びメールが届いた。

【今現在の私は病気と闘いながら孤独に生きています。並樹への恋心を断ち切って、もっと早くに“あの人”の気持ちに応えていたらと後悔しています】
【だからこそ、過去のあなたに選択を誤らないでほしいのです】

 あの人……? 想乃は頼りなく首を傾げ、震える親指でようやく文字をフリックする。送信してまもなく返事がある。

【Xさんの言うことに疑問はたくさんありますが、ひとつだけ教えてください。あの人というのは誰のことですか?】
【還暦祝いパーティーで出会います。ここで名前を教えることはできませんが、会えばわかります。彼の存在が、いずれあなたを並樹から救ってくれます】

【そうですか】と打って送信する。それ以外にどう返せばいいのかわからなかった。

 その後、Xからのメールは途絶えた。
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