Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
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慧弥は夢を見ていた。夜、眠って見るあの夢だ。
なにも、思考に浮かび上がる映像の途中でそれが夢なのだとわかったわけではない。ただ起きたあとにも妙にリアルで、慧弥を陰鬱な気分にさせるには充分すぎる内容だった。
脈絡も繋がりもないものが二つほど再生された。
ひとつ目は母である雅の夢だ。慧弥が七歳のころに病気でこの世を去ったので、もうかれこれ二十年も昔の記憶になる。
今も敬愛してやまないたったひとりの実母。敬愛と言うと少し語弊があるかもしれない。無論、母を尊敬する気持ちはあるのだが、それ以上に好きという感情が上回っていたように思う。
雅に抱く複雑な気持ちはひとことにそうだと言っていいものか、今でも迷いがある。
掃き出し窓を開けた一階のテラスからピアノの音色が流れてきて、幼いはずの慧弥は大人の姿で窓の外に立っていた。真っ白なピアノと向き合い、微笑を浮かべる雅を見ていた。
時おり窓枠の上から引っ提げられた白いカーテンが揺れて、音とともに心地よい風を頬に受けた。
雅はいつも同じ曲を三つほど、ランダムに演奏していた。曲名は知らないし、メロディもすっかり忘れてしまったけれど、ただそばに寄り添って聴いているだけで幸せだった。