Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「そちらのお若い女性は?」
「やっと聞いてくれましたか。やっぱり気になりますよねぇ、僕がこんなに綺麗な子を連れていたら」

 慧弥は、もったいぶるように口元を綻ばせ、愉快げに笑う。

 蔵は半ば呆れたように「なるほど、そういうことか」と、どこか達観したような笑みを浮かべた。

「ええ、そういうことです。前にもそれとなく言いましたよね? 彼女は僕の婚約者(フィアンセ)ですよ」

 慧弥が軽く手を動かすと、それを合図にするように、想乃は「初めまして」と上品にお辞儀をした。

「慧弥さんとお付き合いをしています、浅倉想乃と申します。本日はこのようなおめでたい場でお目にかかれて、大変光栄に存じます」

 黎奈に厳しく仕込まれた言葉遣い、お辞儀の角度、表情——。
 一つひとつを忠実に守り、慎み深く振る舞う。

 蔵は目をぱちくりと瞬かせ、「これはまた」と、やや照れくさそうに会釈した。

「慧弥にはもったいないくらいの素敵なお嬢さんだな……いやはや、白百合のように清らかで、目の保養になる」
「……え」

 これは、どう返せばいいのだろう。
 お世辞とはいえ、容姿を褒められたのだから、やはり「ありがとうございます」が適切だろうか。
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