Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 今日黎奈が履いているヒールの高さを思うと、子供を抱き上げるのは危険だからだろう。彼がひょいと両肩を上げながら呆れ顔で想乃に目配せする。やれやれ、とでも言いたげな顔だ。

「おいで、賜」

 父親の晴彦がしていたように(かい)を抱き上げた。「賜、ちょっと重くなったんじゃない?」と黎奈に話しかけている。

「想乃ちゃん」と肩先に黎奈の手が触れた。

「あそこにいる明るい茶髪の彼が、従兄妹(いとこ)(じゅん)で、紫色のドレスにボブヘアの方がその妹の美海(みみ)
 で、向こうにいる黒いドレスの女性が義母(はは)穂花(ほのか)義妹(いもうと)花奏(かなで)。あとで会食と歓談の時間がたっぷりとあるから、また慧弥から紹介してもらうといいわ」

 黎奈が手で差し示した方向を見て、それぞれの姿を認める。想乃は「わかりました」と言って笑顔で頷いた。

 不意に会場が幾らかざわついた。ひとりの老紳士が黒スーツの男性を従えて入って来る。「お祖父(じい)さまよ」と黎奈が声をひそめた。

 ナミキホールディングスの創業者であり、会長職に就いている並樹(なみき)(いさお)だ。

 御歳八十代後半だと聞いているが、どこか若々しく勇ましい。目つきからして堂々たる風格が漂っている。
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