Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜


 司会進行を務める晴彦が開会の挨拶を行い、主催者を代表し、副社長の蔵が壇上に立った。創業者である祖父から社長職を受け継いでから二十年余り、(あきら)が成し遂げた功績を称え、感謝を述べる。

 格式ばった会だけに、その後も堅苦しい挨拶が続く。

 懇意にしている取引先の社長が祝辞を述べ、続いて親族代表として慧弥が父への祝いと感謝の言葉をスピーチする。

 想乃は、家族のエピソードを語る慧弥に自然と目を向け、その横顔を見つめながら、彼への関心を深めていく。

 やがて、蔵が乾杯の音頭を取り、会は立食と歓談へと移った。

 想乃はそっとため息をついた。受付でもらった式次第のパンフレットを鞄から取り出し、プログラムの7番に目を留める。余興としてスライドショーの上映、手品、ピアノの生演奏(3曲)と書いてある。

 正直なところ、胸が締めつけられるほど緊張していた。こんな大勢の前でピアノを弾くのだ。ただ演奏するだけで、本当にいいのだろうか。サプライズのために曲目は伏せているが、事前に知らせた方がいいのかもしれない。

 考えが堂々巡りをしていると、不意に慧弥が顔を覗き込んできた。「大丈夫?」と、心配そうな声。

「……緊張しちゃって」
「手、震えそう?」
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