Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「接客スキルに関しては、基本のマナーとか顧客との会話力、提案力……あと、購入に繋げるクロージングっていう声かけが求められるけど。これらは慣れとともに自然と身につくものだから」
「……そうですか」

 想乃はカップを持ち上げ、ハーブティーを口に含んだ。

 黎奈の提案はありがたかった。慧弥との婚約が本物であるならば、首を縦に振っていたかもしれない。

 けれど、想乃が並樹家の人間とこうして関われるのは一年だけ。来年の十月を迎えるころには、否が応でも彼らとの縁を切らなければいけない。

 一年のカウントはすでに始まり、残りはあと十ヶ月。

 ピアノに携わる仕事をしたいと思ってはいるものの、未だにこれといった職種が見つかっていない。そのため資格試験を受けるにも至らない。

 今、想乃がしていることといえば、母の治療と、四六時中、慧弥のことを考えて時間を浪費するのみだ。

「お話、とてもありがたいです。一度、考えさせてください。慧弥さんにも相談して、またお返事します」
「そっ、わかったわ」

 黎奈の綺麗な笑顔を見つめ、想乃はそっと頭を下げた。

 *

 夕方、最寄駅で慧弥と待ち合わせた。
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