Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「気が散るといけないから、俺はコーヒーでも淹れてくるね」
「……え?」
「デカフェでよかったよね?」
「あ、あのっ、お構いなく」

 キッチンへ向かう慧弥の背中を見て、慌てて声をかけるのだが——

「なにそれ、構わせてよ?」

 彼は一瞬だけ振り返り、無邪気なあどけない笑みを浮かべた。

 ズキュンと、心臓を撃ち抜かれたような気分になる。たちまち体温が上昇し、想乃は真っ赤な顔で俯いた。

 どうしよう、きゅんきゅんしすぎて心臓がもたない。

 もし、ここが自室だったら、迷わずベッドに突っ伏して悶えていただろう。

 想乃は忙しなく高鳴る胸をトントンと叩き、落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせた。

 彼が戻って来るまでに平静を装っておかなければ。

 ひとつ深呼吸し、想乃は真剣にファイルを開いた。

 四つに分類されたカテゴリーから、いくつかジャンル分けされた仕事、そのひとつひとつを考え、想像をめぐらせる。自分に向いているかどうか、やりたいかどうか——。

『演奏関係』の仕事といっても、“ピアニスト”や“ブライダルピアニスト”、“セッションミュージシャン”に“伴奏者”とさまざまに区分される。
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