Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 カップを両手で包んだまま、想乃は瞑目した。幼い男児を助けたときの情景を思い出していた。あれはもう二ヶ月も前のできごとだ。

 不思議にしか思えないけれど、あの一瞬のできごとは今も頭にこびりついている。

 中央分離帯のある四車線の道路。

 黄色いゴムボールを投げて遊ぶ、小さな男の子。

 想乃が青信号で横断歩道を渡りきった、そのあと——タンタンタン。ボールが跳ねて転がり、想乃の傍を通り過ぎていく。

 ボールを取りに走る男児の腕を、咄嗟に掴んで引っ張った。

 走行する車は、急にボールが飛び出したことで、スピードを緩めていた。

 高級感のある黒塗りのセダン。ナンバープレートが、確か『8686』で……。

 そこでハッと息をのんだ。

「そうだ、ハローハローだ」

 四桁の数字を見て、以前勤めていた清掃会社、『ハローハロークリーニング』を思い出したのだ。

 これと似たようなことが、つい最近にも……?

 想乃は眉根を寄せて、思い当たる記憶を探った。

 ホテルの駐車場で走り去っていく黒塗りの高級車。

 慧弥が「あ」と反応して、手を挙げていた。黎奈と晴彦は軽く頭を下げていた。

 ——「あれは社の車なの」
 ——「父とお祖父さまが乗っていたのよ」

 黎奈の台詞を一言一句違わず思い出し、愕然とする。

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