Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 五十代ぐらいの中年女性で、見るからにベテラン主婦のオーラが漂っている。

「想乃ちゃんの彼氏? びっくりするほどの美青年だね〜?」
「……はい。まぁ」

 想乃は眉を下げて、ぎこちなく笑う。

「婚約者の並樹といいます」

 慧弥が品よく会釈すると、「婚約者!」とおばさんが声を上げた。ちょいちょい、と想乃に手招きしてくる。

「想乃ちゃんの彼、どこかの御曹司? 玉の輿じゃない!」

 おばさんは声をひそめて想乃に話すが、当然慧弥にも聞こえている。

「じゃあね!」

 おばさんは話したいことだけ言うと、さっさとカートを押してレジへ並んだ。

「近所のおばさんか、誰か?」

 慧弥に尋ねられ、ううんと首を振る。

「あのおばちゃんは、ここのスーパー友達なんです」
「……買い物仲間、みたいな?」
「はい。両親が事故に遭ってまもないころ、初めてこのスーパーに来て戸惑っていたら、今みたいに気さくに声をかけてくれて」

 ネットで調べて、初めてこのスーパーを訪れたとき。想乃はまだ大学生で、まともに料理をしたことがなく、当然どの食材を買えばいいのか迷った。

 スマホでレシピを調べたものの、思っていた調味料が置いていなかったり、外国産と国産でどう違うかわからなかったり。途方に暮れた。
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