Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「まぁ、素敵……!」

 穂花は両手の指先を合わせ、うっとりとした表情で微笑んだ。黎奈から聞き及んでいた通り、本当に淑やかな雰囲気がある。

「うちの娘は大学生なんだけどね。想乃さんみたいに何か明確な目標があるわけでもなくて。まだまだ大人になりきれていなくて……お恥ずかしいわ」

 穂花はうふふっと笑い、カップの縁を親指でそっと拭った。彼女が飲み干したカップを見て、想乃もカップを傾けた。

 その後、結婚の予定や並樹家への挨拶の日程を尋ねられ、想乃は少し考え込んだ。結婚については来月末にはっきりすると目処がついているけれど、挨拶に関してはまだ充分に話し合えていない。

「改めて慧弥さんと相談して決めます」

 想乃は無難な言葉を選んで、やんわりと微笑んだ。

「そう……それがいいわね」

 穂花は腕時計に目を落とした。

 飲み干したカップをソーサーに置いた瞬間、ふとした違和感が想乃を襲った。

 何だろう。頭がぼんやりとする。

 まるで深い霧の中にいるように、意識がふわりと揺らぐ。さっきまで普通に話していたのに、急にまぶたが重くなり、視界が滲んだ。

「……あれ?」

 思わず呟くと、言葉が妙に舌に絡みつく。指先に力が入らない。

 おかしい。こんなに眠いなんて……。

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