Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃は、優雅にカップを傾けるその仕草を眺めながら、砂糖とミルクを入れてスプーンでかき混ぜる。

 女性は並樹穂花(ほのか)と名乗った。慧弥の父・慧の後妻で、慧弥と黎奈の義母にあたる。黎奈よりひと回り上で、四十代前半だ。

 あのあと、「近くに美味しいコーヒーの店があるの。少し話さない?」と穂花に誘われ、お茶をすることになった。

 パーティーで挨拶できなかったことを、想乃も気にしていたから、こうして話せるのは幸運だったと思う。

 カップを持ち上げてひと口飲む。芳しい香りが鼻をくすぐり、まろやかな苦みが広がった。

 想乃は今一度、店内を見渡す。

 店内は閑散としていて、三十代くらいのウェイターが一人いるだけ。客も想乃たちだけだ。

 あまり知られていない穴場の店なのかもしれない。

「パーティーでの想乃さんの演奏、とても良かったわ」
「あ、ありがとうございます」
「学生さん? プロを目指しているの?」
「……いえ。以前は音楽大学に通っていたのですが辞めてしまったので。今はピアノの資格試験を受けるために教室に通っているんです」
「あら、そうなのね? なにか理由があってその道を?」
「はい。家庭の事情で大学に通えなくなってしまったので……けど、今は慧弥さんと出会えて……ブライダルピアニストの道を目指しているんです」
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