Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
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オフィスの空気が、一瞬で張り詰めた。
幹部からの報告を聞き終えた慧弥は、浅く息を吐き、モニターに映し出された契約書の一節を視線でなぞる。眉間にしわを寄せ、目を細めた。
数日前、海外の新規飲食FC事業を担当していた幹部が、現地パートナーとの契約を進めた。だが、契約内容の精査が甘かったせいで、一方的に不利な条件を飲まされただけでなく、契約先の企業に不正が発覚。
本来なら、契約締結前のリスクチェックで防げたはずの事態だ。しかし、それを怠った結果——すでに契約の一部が履行され、多額の投資資金が動いてしまっている。
相手企業が市場での信用を失った今、契約を破棄すれば違約金が発生し、進めればナミキホールディングスのブランド価値が揺らぐ。
どちらを選んでも、損失は避けられない。
「……つまり、今すぐにでも現地に飛ばなければいけないってことか」
自問するように呟いた声は、妙に冷静だった。
企業全体の信用を守るためには、自らが動かざるを得ない。
法務チームと連携し、契約の修正交渉を進めるか、契約破棄の方向で違約金の軽減を模索する。
並行して、代替パートナーの選定を急ぎ、事業の計画倒れを防がなければならない。
優先すべきは仕事。そんなことはわかっている。