Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ふと慧弥が顔を上げて、想乃に視線を向けた。慧弥の目は赤く、虚なまなざしをしていた。今にも死んでしまいそうな心を、自我を、必死に立て直そうとしているのだと思った。

 想乃の指先が、そっと慧弥の頬に触れた。わずかに熱を帯びた肌。その感触を確かめるように、そっと指を滑らせる。慧弥の瞳がわずかに揺れた気がして、想乃はじっと見つめ返した。

 茶色の虹彩の奥に、小さく自分の姿が映り込んでいた。けれど、その目はどこか遠くを見ているようで——。

 慧弥が受けた傷を、少しでも和らげたかった。でも、どんな言葉をかければいいのか……何を言えば、この痛みを分かち合えるのか……まるでわからなかった。

 言葉が見つからないまま、想乃はそっと慧弥を抱き寄せた。ためらいながらも、彼の温もりを確かめるように腕を回す。

 震える唇を噛みしめる。喉の奥から込み上げる嗚咽を、どうにか押し殺しながら。

「それから……復讐しようと思ったんだ」
「え?」

 慧弥の声が、低く唸るように響いた。想乃は思わず彼を見つめる。慧弥の瞳には、静かな炎のような意志が宿っていた。

「どうにかして、あいつを……。家から追い出してやろうと思った。どんな手を使ってでも」
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