Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃はそれまで腕に抱いていたクッションを傍に置き、慧弥を見つめる。

「……あの、慧弥さん」

 彼の視線が想乃に流れた。

「体が辛かったら言ってくださいね? 私、電車でも帰れるので」
「……えっ?」

 慧弥が短く呟き、心底驚いたような顔をする。

「泊まっていかないの?」
「え?」

 今度は想乃が驚き、きょとんとする。

 慧弥が帰国したのだから、自分もそろそろ帰るのが当然だと思っていた。

「泊まっていってよ?」
「え、でも」
「一週間以上いるんだし。もう何日かだけ……いいじゃん」

 慧弥がふっと微笑み、想乃の赤い唇に軽くキスをした。リップ音が鳴り、想乃の頬がほんのりとピンク色になる。

「郷が。一人でいるし……」

 あらかじめ、想乃のためらいを察していたかのように、慧弥がスマホをタップした。

「郷くんなら平気だよ? ほら、俺にラインくれてる」

【慧弥さん、お帰りなさい】
【先に帰りますけど、僕は一人で大丈夫なんで、姉ちゃんに言っといてください】
【心配性っていうか、過保護なんですよねー(笑)】

 ここでもまた、大人びた気遣いが光る。想乃はスマホの画面を覗き込み、目をぱちくりと瞬いた。

「あの……ピ、」
「ぴ?」
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