Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 これまで慧弥が一貫して取ってきた行動を思い出し、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

 彼はずっと、“救い”を求めていた。

 誕生日の日、慧弥は言った。

 ——「じゃあひとつだけ。調子に乗ってリクエストしてもいい?」
 ——「ハグしてくれる?」

 パーティーのなかで、想乃の演奏に感動したあのときも、抱きしめられた。

「慧弥さんって、ハグが好きなんですか?」——彼がやたらとスキンシップを求めるのが不思議で、思わずそう尋ねた。

 慧弥がどれほど長い間、心の中で救いを待ち続けていたのか。想乃はようやく気がついた。

 慧弥は手の甲で涙を拭った。「ん」と小さく喉を鳴らして、両手を広げた。それが「抱きしめてほしい」という無言の合図なのだと、察する。

 想乃は小さく微笑んだ。慧弥の腕の中にすっぽりと包まれ、自分の腕を彼の背に回した。

「慧弥さん……愛してます」

 精一杯の想いを込めて伝えた。もはや恥じらいなど、微塵も感じられなかった。

 *

 部屋にあるテレビで映画を観終わったあと、慧弥が窓の外を見つめて言った。

「結局、部屋デートになっちゃったね」

 夕方の六時を回り、外は薄暗くなり始めていた。

「そんなの当たり前ですよ。慧弥さん、熱あったんですから」
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