Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 今朝感じた鈍痛はすっかり引いていて、想乃は安堵しながらこくりと頷く。

 建物の内部から微かに流れてくる音楽が、耳に心地よく響く。

 エントランスには、プロオーケストラの公演を知らせる看板が並んでいた。

「もしかして……これからプロのオーケストラを聴くんですか?」
「そうだよ」

 さらりと答える慧弥を見て、想乃は目を丸くした。

「あの……プロオケって。事前にチケットを予約しておかないと入れないと思うんですけど……?」

 言いながら、午前中に慧弥が電話をかけていたことをふと思い出す。

「取引先の企業がスポンサーだから、特別に席を回してもらったんだよ?」

 さも当然のように言い、「こっちの入り口から入ろうか」と慧弥が想乃をエスコートする。

 彼が示したのは、一般客の入場口とは別のエントランスだった。

 黒服のスタッフが控えていて、慧弥の顔を見るなり、すぐにドアを開ける。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 え。まさか、ここでも顔パス……?

 想乃は目を瞬かせながら、慧弥と並んで静かに足を踏み入れた。

 慧弥にとっては、ブラックカードに付与された会員特典を利用しているだけのことだったが、想乃には想像も及ばない。
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