Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 塚口の目が楽しそうに輝くのを見て、慧弥がふっと息をつく。

「何とでも言え」

 そう言いながら、慧弥は想乃の手を取った。「じゃあ、またオフィスでな?」と軽く言い、塚口に背を向ける。

「はい、お疲れ様です。並樹常務」

 塚口は爽やかに挨拶し、軽く手を上げた。

 表面上はパーティーのときと変わらない朗らかな雰囲気だ。けれど、彼の発言にはどこか皮肉めいた響きがあった。

 想乃は手を引かれながら、何とはなしに後ろを振り返った。

 ——瞬間。

 ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。

 塚口が真顔で目を細め、静かに慧弥の背中を射抜いていた。

 冬の夜の空気のように、凍えるほど冷たい視線だ。

 想乃は思わず息を呑む。

 不意に、警察署の前で聞いた水沢の言葉が脳裏をかすめた。

 ——「同期の彼女って知らなくて付き合ったら、結果二股だったとか」
 ——「あいつはそういうことに関しては、相当恨みを買ってるだろうな」

 恐る恐る慧弥の方を見る。

 彼は塚口の視線に気づいた様子もなく、そのまま出口へ向かっている。

 ホールに満ちていた音楽の余韻とは裏腹に、得体の知れない不安がじわりと胸に広がった。

 想乃は、そっと息を吐く。

 やっぱり、慧弥さん……。よく思われてないんだ。

 黙ったまま、慧弥とともに駐車場へ向かう。

 帰りの車内でも、塚口の冷たい目が脳裏に焼き付いて離れなかった。
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