Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ***

 三月半ば。

 想乃は慧弥とともに、水族館へ出かけた。

 バレンタインの埋め合わせとして選ばれたその場所は、夕方から夜にかけて、幻想的な空間に変わる。

 館内の照明は落ち着いた青い光を放ち、ゆらめく水の影が足元に揺れる。

 波の音すら届かない、静謐(せいひつ)な世界。そこには、二人だけの時間が流れていた。

 人の少ない館内を並んで歩きながら、想乃は時折立ち止まり、泳ぐ魚たちに視線を向けた。

 どこか別世界にいるような、静かで穏やかな時間が流れる。

 閉館後、スタッフに案内され、特別に用意された貸切エリアへと足を踏み入れた。

 大水槽の前には誰もおらず、ただ静かに魚たちが行き交っていた。

 澄んだ水の向こうで、色とりどりの魚たちが舞うように泳いでいる。

 幻想的な光景に目を奪われながら、想乃がふと目を凝らした、そのとき——。

 水槽の中にダイバーが現れた。

 ゆっくりと浮上しながら、手にしたボードを掲げる。

【Would you marry me?】

 一瞬、時間が止まったように感じた。

 思わず息をのんでいると、隣に並んだ慧弥がそっとポケットに手を入れた。

 振り向いたときには、すでに彼の手の中にリングケースがあった。
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