Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ミライが冷静な口調で尋ねた。

「ええ、いますよ」

 慧弥が静かに答える。その視線がこちらに向けられた気がして、想乃は思わず彼を見る。

「あなたが執拗に“大事にしろ”とこだわっていた、浅倉想乃が」
『——っえ!』

 電話の向こうで、少女の声が震えた。

 息を呑む気配が伝わる。

 ……そんなに驚くなんて。

 想乃は戸惑った。

「ミライさん……あなたにとって、とても大切な存在なんじゃありませんか?」

 慧弥の問いかけに、ミライは沈黙する。

 しばらくして——

『本当に?』

 弱々しい声が響いた。

『そこに、いるんですか? 想乃さんが』

 今にも泣きそうな声音だった。

 想乃の胸がざわめく。どう答えればいいのか迷い、隣にいる慧弥を見ると、彼が小さく頷いた。

 ……話してもいいってこと?

 言葉にはせずに、静かに息を整える。

「います、私も一緒に」

 そう答えると、電話越しに微かな笑い声が漏れた。

『想乃さん……今、幸せですか?』

 予想外の問いに、わずかに困惑する。けれど、ためらいを見せるべきではないと直感した。

「幸せです」と即答する。

『……あなたが最後に見せた顔……今も脳裏に焼き付いて離れないんです。そうですか、幸せなら……それでいいんです』
「私を……知ってるんですか?」

 想乃は恐る恐る尋ねた。

『……はい』

 ミライの声は震えていた。

 どうしてそんなに動揺しているの……?

 先ほどまでの理知的な話し方が、今はすっかり崩れている。
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