Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜


 想乃の体に、全く予想もしない変化が訪れた。

 ここ数日、体の調子が優れない。朝起きたときのだるさ、ふとした瞬間に襲ってくる眠気、そして——何よりも違和感を覚えたのは、食べ物の匂いだった。

 普段なら気にも留めない香りに、妙に敏感になっている。

 郷の弁当と朝食の支度をしようと冷蔵庫を開けた瞬間、ツンと鼻を突く匂いに思わず顔をしかめた。食欲がないわけではないのに、胃の奥がざわつくような感覚が拭えない。

 ——もしかして。

 そう思い至った瞬間、心臓が強く跳ねた。

 心当たりを裏付けるように、ふと考える。生理がもう二週間も遅れている。

 無意識のうちに、そっとお腹に手を添えた。考えすぎかもしれない。けれど、もしそうだとしたら——。

 期待と不安が入り混じる中、静かに息を吐く。

 確かめなければならない。でも、それ以上に、この変化を誰よりも先に伝えたい人がいる。


 *

『——えっ?』

 通学のある郷を玄関で送り出すと、想乃はすぐに電話をかけた。

 まだ確かめたわけでもないし、病院の予約をしたわけでもない。ただの違和感と直感に過ぎない。

 それでも、慧弥の子供を宿しているかもしれないと伝えると、彼は息を呑み、しばしの間沈黙した。

『想乃……今日の予定は?』
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